「テクノ」と、「EDM」「トランス」の間にある越えがたい"壁"
※少し取り上げている楽曲が古めですが、初出が2015年12月(以前やってたブログにて掲載)の記事ですので、ご容赦を。
さてここ数年、世界ではEDM(Electronic Dance Music)と言われているジャンルの音楽が盛り上がっているようです。直訳すると「シンセサイザー音を中心に構成されたダンスミュージック」という、非常に大雑把な意味になってしまいますが、実際はある特定の傾向を持ったサウンドに限られるようです。
ところで、「シンセサイザー音を中心に構成されたダンスミュージック」という意味では、以前から「テクノ」と呼ばれるジャンルのサウンドが存在します。ところが「テクノ」と呼ばれるジャンルの有名アーティストが「EDM」のフェスティバルに出演したり、楽曲で共演することは殆ど無い(例外的にクラフトワークがEDMのフェスに出演したことがありますが、あまりウケなかったようです(苦笑))し、その逆はもっと無いようです。
どうも「テクノ」と「EDM」の間には、越えがたい壁のようなものがあるようですが、それは何でしょう。なぜかこの点について言及している記事を紙でもネットでも見かけないので、ちょっと考察してみました。
ではまず最初に、ここに挙げる、シンセサイザーを駆使するミュージシャンとして、世界中からリスペクトを受けている3人にはある共通の特徴があります。それは何でしょう。
冨田勲
ラルフ・ヒュッター(クラフトワークのリーダー)
坂本龍一
それは、「3人ともクラシック音楽や現代音楽畑の出身である」ということです。
(大学で音楽教育を専門に受けたのは坂本龍一だけですが)
もともとシンセサイザーは、音響の学術研究のためのものとして開発されたものですが、それをポピュラーミュージックに取り入れた元祖が、彼らだということはご存じの方も多いでしょう。
そして、彼らのサウンドに共通する特徴が、「複雑な和音(ハーモニー)の響き」です。
かつて自分でYMOの「中国女」のカバーを演奏した時、トラック作成中、全体的にはシンプルに聴こえる音なのに、時々鳴る複雑なコード音がフックとなって、この曲の魅力を高めていることが良くわかりました。
彼らが複雑なハーモニーを使うのは、一つは彼らのルーツ、もう一つの理由は、当時のシンセサイザーの同時発音数が少なかったため、それを補うためのテクニックであったと考えられます。
Isao Tomita - Arabesque No. 1
Kraftwerk - Die Roboter
Ryuichi Sakamoto - Thousand Knives
そして、彼らを"ゴッドファーザー"として仰ぐ「テクノ」アーティスト達も、またこぞって複雑なハーモニーを好んで使用します。たとえそれがワン・コードのミニマル・テクノであっても、そこでずっと鳴っているのはテンションコードだったりするわけです。
Derrick May & Friends - Strings of Life(なんとオーケストラと共演)
Orbital - Halcyon
ところで「複雑」というのは、別の言い方をすると「明るいのか暗いのか判らない」サウンドなわけですが、世の中にはそのようなサウンドを好まない人も沢山います。「どっちなのかハッキリしてくれ」というわけです。
「EDM」は、そのような人たちの好みにピッタリハマりました。というのも、使っているコードは「メジャー!メジャー!マイナー!メジャー!」といった感じで、バカみたいに単純だからです。昔のシンセサイザーでそのようなサウンドを奏でたら、単なる"脱力系"にしかならないように思いますが(笑)今は違います。コンピューターの力で、何百音でも同時に鳴らすことが出来ます。その証拠に、EDMのアーティスト達は、いくつもの違う音色を重ねて鳴らす(レイヤー)を非常に多用します。だけどハーモニーは単純明快。ここが「テクノ」と「EDM」の大きな違いではないでしょうか。
また「EDM」は、いわゆるユーロ・トランス、ダッチ・トランスと言われる「トランス」サウンドのアーティストが転身する例が多いですが、「テクノ」と「トランス」の差も、やはりハーモニーの響きの違いであると言えると考えます。
Zedd - I Want You To Know ft. Selena Gomez
SKRILLEX - SCARY MONSTERS AND NICE SPRITES (ZEDD REMIX)
Armin van Buuren feat. Trevor Guthrie - This Is What It Feels Like
System F vs Armin van Buuren - Exhale
ここでちょっと気になったのは、「トランス」「EDM」のアーティスト達は、クラフトワークやYMOをルーツに持たないとすれば、どこでシンセサイザーの音に親しみを覚えるようになったのだろう、ということです。
そこでハタと気がついたのは、「それはコンピューターゲームのBGMではないか」ということでした。確かにゲームのBGMは、最初期(「スペースインベーダー」や「ゼビウス」「ドルアーガの塔」など)こそ、クラシック/現代音楽的な響きですが、コンピューターゲームが一般化し、ハードウェアの性能が上がっていくにつれ、響きはむしろ単純化していきます。特にアクションゲームのBGMは高揚感を煽る、ひたすら明るいものでなくてはなりません。彼らのルーツはゲーム音楽なのではないか・・・というのが最近の僕の考察です。
XEVIOUS
MSX: Gradius 2 Soundtrack
ちなみに自分はどちらかといえば「テクノ」派ですが、最近はEDM的なサウンドを多用するK-POPを日常的に聴いているので、EDMにも抵抗があまり無かったりします。スクリレックスは面白いですね。
Skrillex - Dirty Vibe with Diplo, CL, & G-Dragon
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